チェルノブイリ原発事故の写真

【おすすめ漫画レビュー】原発事故後のチェルノブイリを描いた名作「創造者の罠」

    

隠れた名作すぎる名作

お気に入りの漫画を紹介します。

「創造者の罠(上・下)」(ヤングジャンプコミックス、水穂しゅうし、1999年)

たぶんほとんど知られていません。
作者は「ハイスクール仁義」とか「ブルジョワ刑事(デカ)」とか、けっこう書いてるんですが、たぶんヤングジャンプの古い読者くらいしか知らないと思います。

絵のタッチとキャラのノリが独特なので、あまりマジョリティ受けする感じではない気もします。でも、この「創造者の罠」はすごいです。マジで完成度が半端じゃないです。

舞台は人類最悪の原発事故現場・チェルノブイリ

かんたんにストーリー紹介するとこんな感じです。

時代は現代(1999年当時くらい)。場所は東京。
主人公の男性(30くらい)は物理学者、専門は原子力。
彼は国から請われて「チェルノブイリ原発施設調査に同行」することに。

それで、主人公の知らないところで色々「コト」が進行しています。
実はこのチェルノブイリ原発に、世界各国が軍隊を送り込んでいました。
「原発地下で発見された、『ある生物』の調査」のために。

「石棺」と呼ばれる原子力発電所内部で主人公が遭遇するのは?

ロシアの精鋭部隊がまず施設内で姿を消し、次に(よく世界最強みたいな設定でフィクションに出てくる)英国特殊空挺部隊「SAS」までが……。数時間後に発見されたSAS隊員は、かろうじて動いてはいるものの、皮膚はどろどろに溶け、眼球は飛び出し、手にしていた機関銃はなんと皮膚と同化して体の一部になっていました。

この報告を受けてアメリカ・ホワイトハウスが動き出します。アメリカの特殊部隊と「使い捨て」として白羽の矢が立った我らが日本・自衛隊の合同軍がウクライナのチェルノブイリに向けて出発します。核専門家の主人公が依頼されたのは、このミッションでございました。

漢たちの人間ドラマも見どころ

そんで、なんやかんやあって現地に着くのですが、実は自衛隊の司令官が主人公の防衛大学時代のイッコ先輩でした。一見やさおとこでナヨナヨな主人公なんですが、実際は防大時代にその奇抜で人を食った作戦立案で名を馳せていまして。

一方、このイッコ上の先輩はガチガチの帝国軍人タイプです。入学式の日、咲き乱れる桜の木の下で三島由紀夫の小説を読んじゃうような男なわけです。うーむ、かっこよすぎ。

そういう対照的な二人なので、顔を合わせれば衝突(というか一方的に先輩に殴られる)してたものの、内心ではタイプのまったく違う相手を互いに尊敬し合っていました。でも卒業を迎えるタイミングで、主人公は結局士官を選ばず、慰留するミシマ先輩に詫びつつ研究者の道に進んでいきます。

そういう過去のあった二人が、この原発ミッションで予期せぬ再会を果たすわけですね。ミシマ先輩は開口一番「軟弱者が何しに来た!」と怒鳴って主人公を思いっきりぶん殴ります。ひどい話。訴えていいですよコレ……。

ともあれ現地に到着して、さっそく日米両軍が展開。学者主人公はガイガーカウンター片手に随行するんですが、原発建物の外ですでにもんのすごい数値をしめすカウンターにびびりつつ、「すごい、すごい、僕は来たんだ、チェルノブイリに!」と大興奮です。おいおい……でも、そのちょっと倒錯した感じが不思議とわかる気がしてしまうんですよねぇ。

で、「こんな数値じゃ、原発内にとどまれるのはせいぜい数時間だ」と主人公は両軍に警告し、軍人たちは改めて脇の下を締めつつ、ミッションの目的地である原発最深部めざしてLet’s go。

でも主人公はふと気づきます。「人間が数時間しかいられないこんな危険な場所に、いったいどんな『生物』がいるんだ?」と。

このあたりから、ちょっと先の読めないぞくぞくな展開になってきます。事故後誰も足を踏み入れたことのない原発最深部には、何が待ち構えているのか……気になりますよねぇ。

原発事故現場を描いた数少ない作品

こんな展開です。作中のあらゆる要素が伏線になってて、前述のミシマ先輩と主人公の互いを認めながら反発しあう関係なんかも、ラストにしっかり生きてきます。エンディングも圧巻で、読み終わったあと、無神教のぼくでもちょっと敬虔な気持ちになりました。

東日本大震災以降、原発ってワードはつねに取り扱い注意になってるし、最近ではテレビでもその手の話はあんまり見なくなりましたね。NHKでたまに思い出したように取り上げているくらい。

漫画だと、知るかぎり「いちえふ」って原発後処理従事者の体験記があるくらいでしょうか。そんな現況なので、この「創造者の罠」はなかなか読まれなさそうです。

この名作を埋もれさせちゃいけない

というか今の日本では「原発」っていうだけで忌避されるかもしれません。というかそもそも、原発というテーマに関係なく、「一度埋もれてしまった書籍はもう再浮上できない」のかもしれないですね。

年間、ざっと8万点以上の書籍が発売されてるわけで、でも書店の棚スペースは縮小する一方なわけですから。amazonなんかの電子書店は基本的に目的買いなので、ふらっと見かけた良書を手に取る、という機会はあまりなさそうですし。そう思うと消費ペースが速すぎるんですよね。

自分は幸運にもこの「創造者の罠」を発売当時に買っていて、今も家の本棚に大事にとってあります。

先日読み返してみて改めてその完成度に圧倒され、「このまま埋もれさせてはいけない」と妙な使命感にせき立てられてこのレビューを書くことにしました。

おひとりでも、この名作を読んでくださればとても嬉しいです。

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